鉱山会社のコイ

友人から聞いた話です。
ある大学の工学部でこんな試験問題が出ました。「鉱山会社の排水の水質異常を常時監視する方法を述べよ。」学生たちは考えました。「重金属濃度を調べるため電気伝導度センサーを取り付けておいて監視盤で常時数値を把握する。」「pHが基準を外れたらブザーが鳴るようにする。」「濁りを検出する光透過度センサーを取り付ける。」「有機の汚れには赤外線センサーが良い。」などなど。
しかし正解は「鉱山会社の最終放流槽でコイを飼う。」でした。学生たちは怒ったそうです。「なんだ。そんなの工学部の試験問題じゃないだろ。」と

でもよく考えるとこの先生の考えは正しいのです。水質といってもいろいろな意味があります。重金属、pH、細菌、有機的汚れ(BOD)などです。これらを全て確実に検出できるセンサーはないでしょう。あったとしても*千万円かかるかも知れません。だったらコイ君を観察していて、コイ君の元気が無くなったら水質異常と判断し対策を打つというのが最も低コストでしかも現実的ということになります。私も会社事務所前の小さい池でコイを飼っているのを見たことがあります。

工学部の学生だけではありませんが、とかく技術者は難しく考えたがる。高度な技術をひけらかしたいと思っている人もいる。でも世の中で求められている知恵とは、そんなものではなく、依頼者にとって実際に役に立つ知恵なのです。技術が高度かどうかは、どうでも良いのです。先生はそう言いたかったに違いありません。自分もこんな先生に教わりたかった。

ある会社を訪問したとき、玄関前の池の前で「元気でりっぱな錦ゴイでしょ。こいつが元気だとワシもうれしいんだよ」と言われた経営者が居ました。この言葉の裏にはどれほどの水質管理技術の知恵が含まれていることか。こうした目でいろいろなペットを見て飼い主の気持ちを考えるのも面白いと思います。

そしてもう一言。
このように生物を使って有害性を判定する方法を専門用語で”バイオアッセイ”と言いますが、決して古い手法ではありません。排水の有害性を、基本的には藻類、魚類、甲殻類への毒性評価で判定する方法も盛んに研究されています。その一つがWET手法と呼ばれる方法です(須藤隆一「おおいに議論して今後の水環境の方向性を定めたい」用水と廃水,vol52,No.1,3-6頁,2010年)。個々の水質基準での評価に限界がある場合に、その代替法として期待されています。