30年ぶりの枕草子

少し前になるが、ある技術士の方の講演を聞いた。
ご専門は空調である。古今東西の冷暖房のことがテーマだった。

その話の中で、こんな古典が紹介された。

枕草子、第七十八段より】
「うち局は、かみの小蔀上げたれば、風いみじう吹き入れて、夏もいと涼し。冬は雪、霰などの、風にたぐいて吹き入りたるも、いとおかし。」
‥現代語訳‥‥
「宮中の局(つぼね)の上の方の小蔀(こじとみ)を上げてあるので、風がひどく吹き込んで、夏もとても涼しい。冬は雪、霰などが風と一緒に吹き込んでくるので、とてもおもしろい。」

徒然草、第五十五段より】
「家のつくりやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる。暑き頃、わろき住居は、堪へ難き事なり。」
‥現代語訳‥‥
「家の造り方は、夏を主とするのが良い。冬は、どんな所にも住むことができる。暑い時分に、住むのに不適当な住まいは、我慢できないものである」

これらは、日本の建築や空調を考える上で大変貴重な示唆を含んでおり、それらの設計の基礎の一つとも言えるそうである。特に枕草子の一文は、現在でも空調技術者の間では有名だそうである。

大変有意義な講演であった。

それにしても古典を読んだのは、高校時代以来、実に30年ぶり以上であった。その頃自分が、古典で赤点を取ったことも思い出した。
そして技術の仕事をやっていて英文を読むことは珍しくないが、古典を読んだのは初めてであった。なぜか新鮮な感じを受けた。

はるばる東京からおいでになった技術士のT先生に感謝する。