昔ある人から聞いた話です。今どき、こういう類いの話を聞くことはまずありませんが‥‥‥。
そこから少し離れたところの墓地の隣に、大きな柳の木がありました。
ある雨の日の夕方、タクシーがその近くを走っていたら、柳の木の下で色白の痩せた女性が手を上げていたので、乗せました。「お客さんどちらまで?」「療養所までお願いします。」「はい、わかりました。」
その女性客は何も言わず、じっとしていたそうです。一人乗せたのに、妙に車体が軽いと思いながら、雨の中を軽快に走り、間もなく療養所に着きました。
「着きましたよ、お客さん。」と言って振り向いたら、何と誰も居ないではありませんか。そしてシートはぐっしょりと濡れていました。
運転手さんは驚いてあわてて、その療養所の受付に駆け込みました。そして受付のおばさんにそのことを話しました。
おばさんが言うには「ああ、あの女ね。昔、雨の日の夕方にここを抜け出して柳の木の辺りで倒れた女が居たのよ。隔離病棟の末期患者だったんだけどね。今でも時々柳の木のあたりに出没するんだけど、車に乗せたのは多分あなたが初めてよ。」
運転手さん、悲鳴を上げて腰を抜かしたそうです。