運動会の思い出

明日10月1日は、村の運動会である。

 今どき珍しいことではないが、私の住んでいる村も急速に高齢化が進んでいる。ご高齢の方々は皆いつまでもお元気で、これは大変喜ばしいことである。しかしこれまで経験したことの無い問題が発生することがある。以下は、私が村の運動会実行委員長だった頃の話である。 
 運動会はいつも9月下旬に行われるが、その準備には7月初旬に取り掛かる。その年の第一回目の運動会実行委員会で老人会のリーダー格の方から要望が出た。
「老人向けの種目が少ない。玉入れだけではさびしい。これだけ老人が増えているのだから、もっと種目数を増やしてくれ。」
 それからが大変だった。老人らが楽しく競える競技って何だろう。走ったり飛んだりするような激しい運動は避けなければならない。でも楽しく無ければならない。図書館や書店に運動会やレクレーションに関する本はたくさんあるのだが、子供や元気な大人向けの競技ばかり載っていて、老人向けの競技は見当たらない。
 それでも2つ提案した。
 ”シルバーワールドカップ”:いわゆるPK合戦である。5人ずつのチームに分かれて得点を競うのである。激しい運動ではないし日本でサッカー熱が高まってきた頃だったのでウケるかと思った。しかし却下された。キーパーの方が大変とのことであった。
”シルバーニアピン大賞”:旗を立てておき、グラウンドゴルフのクラブでボールを打ち、誰が最も旗にボールを近づけたかを競う。しかしこれも却下された。道具をチーム数だけ集めるのが大変とのことであった。 
 さらにスッタモンダした末、ある年配の方が提案した”ラケットリレー”に決まった。テニスボールをラケットに乗せて、落とさないように走って旗を回って帰ってくるというものであった。私は少々驚いた。それってかなり走らなければならないので老人には酷ではないか。しかし何故か老人会の方々には納得していただけた。  
 運動会当日、何の問題もなく楽しい”ラケットリレー”が行われた。何だ。今どきの老人は皆元気じゃないか。喜ばしいことではあるが、少し拍子抜けした気分でもあった。でも一口に老人といって色々な方がいらっしゃるから、この種目に出られなかった弱者もいるんだろうなと考えた。本当に良かったのだろうか、しかしこの種目はそれ以来老人種目の定番として毎年行われている。